卒業生インタビュー

農業の循環型社会を構築し世界に普及させたい

三井住友信託銀行 経営企画部サステナビリティ推進部
(元国際協力機構〈JICA〉専門家)

後藤 明生

久留米工業高等専門学校 生物応用化学科 2000 年度卒

現在のサステナビリティ推進部でのお仕事の概要を教えて下さい。
銀行が投融資を検討する際に、技術者として事業や技術の目利きを行うこと、それと事業会社と共に新規事業開発を手掛けるのが主な仕事です。また、関係省庁へ提言を行う機会もあります。これまで金融機関はリスクとリターンの 2 軸で投融資の判断をしてきましたが、現在はそこにインパクトという新たな軸が加わりました。このインパクトを生み出すには技術への理解が重要になることが多いため、私のような技術屋が銀行員となる機会を得たわけです。所属チームは様々な専門家で構成され、私は主に農業案件を担当しています。
政府開発援助のプロジェクトや商社、大手化学メーカーなど様々なフィールドで活躍されてきました。
いろいろな業界・業種を経験してきましたが、私は「食糧安全保障への貢献」と「農・食を通じた価値の提供」をテーマにしています。大学卒業後、すぐに就職せずに、(社)国際農業者交流協会の派米研修に参加して 1 年間、農業と英語の勉強をしました。帰国後、農業資材の専門商社に入社し、農業資材の貿易実務を学んだ後、JICA に転職しました。JICA では、政府開発援助の農業専門家としてアフリカの農業開発に従事しました。ジンバブエ、ウガンダ、ケニア、ザンビアに合計10年駐在し、その間に隣国でも技術指導を行う機会を得たので、10 か国以上の事業に関わりました。
技術指導の具体的な内容は。
近年、アフリカでもコメを食べるようになり、その輸入による外貨流出が財政を圧迫していました。そこで、各国はコメの国産化の取組みを始め、稲作技術で優勢を持つ日本が支援することになったのです。私の仕事は、プロジェクト運営と技術指導。指導対象は農家、普及員、研究者、省庁職員と幅広く、こちらも多くの学びがありました。
アフリカでの農業支援で一番の成果は何になりますか。
当初数名しかいなかった稲作研究者が、10 倍には増えたこと。また、普及員は 1000 名以上、農家は 5 万戸以上に指導をしてきました。指導した農家の平均所得は 2 割以上増加しましたので、この人材育成と所得向上への貢献が成果だと思います。最も長く駐在したウガンダでは、当初約 4 万 ha であった稲作の耕作面積が 50 万 ha にも及んでいますので、経済の面でも少しはお役に立てたと思います。
今後の計画や夢は。
今後は農業を起点とした循環型社会の構築に取り組みたいと考えています。この循環は農業だけでなく、他の産業も含めた構想にする必要があり、日本はその先端を進むポテンシャルを有しています。日本型循環モデルを構築し、それを世界に普及させていきたいと思っています。
高専教育への要望はありますか。
研究機能を強化し、学生が早くから高度な技術開発に触れる機会を増やすとよいと思います。それと、各高専が地域の課題や地場産業を意識して特色のある研究課題を掲げると、高専を中心とした共創の場が構築でき、優秀な学生が集まるようになるのではないでしょうか。そうした特色ある高専から各分野で日本をけん引する人財が出てくると思います。
高専生へのメッセージを一言。
若いうちから学生に判断を求める機会が多いのが高専の特徴だと思います。また、就職も進学も編入もできる選択肢が多いのも魅力です。その優位性を活用して、ぜひ有意義な学生生活を送ってほしいです。

後藤 明生

ごとう あきお
高専卒業後に佐賀大学農学部に編入。(独)JICA、(株)カネカ、三井住友信託銀行(株)で農業の専門家として従事。「食・農のトータルコーディネーター」を目指す。