祝賀メッセージ

次の 30 年への期待

国立大学法人 東京工業大学 学長(昭和49年度 神戸市立工業高等専門学校卒)

益 一哉

高等専門学校制度創設 60 周年、誠におめでとうございます。
私事で恐縮ですが、私は昭和 45 年に神戸市立工業高等専門学校電気工学科に入学し、昭和 50 年 3 月に卒業しました。一人の高専卒業生として、60 年にわたり高専教育を支え、発展させてきた多くの方々に深く感謝申し上げます。

15 歳の私にとって、中学校を卒業した後にすぐに専門的な学びに取り組むことができるということは、非常に魅力的でした。最近の高専生や卒業生にお会いして話をしても、何かを作ってみたいとか、何かをしたいという気持ちをもって高専に進学する人が多いようです。この「昔も今も変わっていない」気持ちが60 年の伝統と優秀な人材が生まれた源泉であると改めて感じています。

私が学長を務める東京工業大学は、理工系総合大学でありますが、戦後の教育改革の伝統に基づくリベラルアーツ教育を重要視し、東工大に入った学生へは「志」をもつことの大切さを伝えています。最近、我が国の産業は残念ながらあまり元気がありません。こういう時期であるからこそ、今一度、大学や高専で「志」について考えてみてはどうでしょうか。

高専が生まれたのが昭和の高度成長期です。理工系大学や高専も、その教育分野や研究分野は当時とあまり変わってないように思えます。現在そして未来を考え、学科構成などは思い切った改編は必要でしょう。では、昨今の DX(Digital Transformation)の潮流に沿い、単に情報系学科のみを増やせば良いのでしょうか。そのように単純ではなく、まずどのような「志」を持つかが肝要ではないでしょうか。

世界の状況を見ますと、最近の 30 年は、製造業中心の世界から Cyber 空間に軸が移動し、少数の新産業が世界を独占しています。そして、この分野において我が国は出遅れています。一方で、世界では地球との共生を目指し、2050 年のカーボンニュートラルが大きな目標として掲げられ、技術のみならず社会システムそのものの変革への取り組みが進められています。カーボンニュートラルは Cyber 空間だけでは実現できず、Deep Tech あるいは Real Tech との協創が必然となります。さらに社会との協調も重要です。このような協創や協調を実践するためには、俯瞰する視点や「志」を育むリベラルアーツ教育がより重要になります。高専教育を振り返ると、やはりリベラルアーツ教育は、これからの改革が求められるでしょう。例えばオンライン教育を利用して、複数の高専でのリベラルアーツ教育強化も可能だと思います。高専生が一層社会変革にも目を向けることになるでしょう。

次の 30 年という時間軸を考えたときに、地球の課題であるカーボンニュートラルに向けての産業は、社会を視野にいれた Cyber, Physical (Deep Tech/Real Tech) and Social Systems(CPS2)が中心になると思います。従来の産業とも共生し、地球課題を社会とともに協創する CPS2 産業を、高専生やその卒業生、そして東工大も一緒になって生み出して、次の 30 年に貢献してほしいというのが私の願いです。

高専で学び、我が国だけでなく世界で活躍してきた何十万人という高専卒業生とともに、高専教育の益々の発展と我が国への貢献を期待しています。